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トップ> 〇故宮博物院を見てきました②故宮の作品の感想

作品の感想


                          



―1、前期―



前期は山水画がメインで、故宮の誇る、范、郭熙、李唐の山水画三点が並んで展示されていた。


 


 范「渓山行旅図」は、一見強いインパクトがあるわけではなく、肩透かしを食ったような印象だったが、じっと見ていると、内に込めた力をじわじわと押し出してくるような絵で、離れ難かった。中央の山塊は、形の中に量と緊張感があり、圧巻だった。見ている程に大きく迫ってくる絵で、画面の外が想像された。広大な風景を、このような縦長の画面に納めたのもすごいことだと思った。茂みの中に、近年になって発見された小さな范という落款を見つけることができ、嬉しかった。


李唐「萬岳松風図」も、范と双璧の素晴らしさだった。こちらは范よりズバッと明快に迫ってくる力強さがあり、画面全体に漲る力の張りを感じた。かなり痛んでいるため、よく見ないと見えない部分が多かったが、上半分、雲の中から頭を出している主峰とそれを囲む鋭い峰々の作る空間の大きさ、ダイナミックさは圧巻だった。同じ李唐の小品「座石観雲」は、目の前の岩の間に突然のように大きな雲が現れ、それをこちらから二人の人物が観ている、という面白い情景を緻密に描いていた。


 郭熙「早春図」は、これを山水画の最高傑作に押す人も多いが、上記二点に比べると、自然を掴むストレートな力という点で物足りない。ただ、空間構成という点では非常に面白く、異様な空間が立ち上がってくる凄みがあった。


 董元「渓岸図」は、上記四点と並んで展示されていたが、岩などぬるっとした感じで、以前上海で見た同じ董元の「瀟湘図」の素朴でしっかりとした筆とは違い、真筆ではないとの学説に賛成である。ただ、細部まで非常によく描けていて、とても面白く、作者の非凡な力量を感じさせる絵だった。


 徽宗は北宋最後の皇帝だが、「文会図」「蝋梅山禽」は共に素晴らしい絵だった。単なる余技の域をはるかに超えているだけでなく、同時代の最高の画家達に全く遜色がない。「文会図」は、木の下に机を置いて食事している絵だが、人物の椅子や木の葉、柳の下がった葉、画面隅の竹、石に至るまで、神経の通った緻密、繊細な描き方で、特に柳の葉は一枚ずつ線でくくっていながら、全体として風に柔らかく揺れる雰囲気が素晴らしく、いつまでも見飽きなかった。三つ置かれた机の配置も、ゆったりとした空間を感じさせ、一つづつの物は小さく緻密ながら、画面全体はゆったりとしていた。「蝋梅山禽」も、徽宗の描く対象に対する優しく繊細な思い入れを感じさせ、日本にある「桃鳩図」を思い起こさせた。寒い空気の中、蝋梅の枝で身を寄せ合う二羽の鳥が印象的だった。二点とも色彩が美しかったであろうが、痛みが激しく残念だった。


 宋人「小寒林図」は、小さい画面の中にうねって枝を伸ばす枯木が描かれ、よく見ていると、木の根元を水が流れ、丘が遥か奥まで続き、道行く人なども描かれていた。とても小さい中に、非常に充実した奥行きの深い空間があった。


 趙幹「江行初雪図」は画巻で、水辺で生活する人たちが実感を持って描かれ、流れる水に沿って、人物、風景など一つづつ見ていく楽しさがあった。くすんでいるが、色も良い。北宋が金に破れ、金の王朝にこの画巻が収められたとき、金の王によって画面に押された印なども見られ、興味深かった。


 ほかに、小画面に大きな量感を感じさせる黒白二頭の馬が描かれた韓幹「牧馬図」、墨をかすれ気味にした線が気持ちよい喬仲常「後赤壁賦」と李公麟「山荘図」、墨の緻密な濃淡で描かれた山水が美しい巨然「蕭翼賺蘭亭図」、小画面に雲から頭を出す峰々を緻密に描いた燕文貴「奇峰萬木」などが良かった。


 


―2、後期― 



後期は、花鳥画がメインだった。


 


 崔白「双喜図」が群を抜いて素晴らしかった。寒い空気、風、その中を貫く二羽の野生の鳥の鳴き声と、その声に振り向く兎という一瞬の情景。自然の中に身をおいた実感と緊張感が、画面全体に張り詰めていた。細かい毛描きをしながら、たっぷりとした量感と骨格を感じさせる兎、鳴き声まで聞こえそうな鳥が良かった。かなり痛んでいるが、色彩も美しい。


 宋人「富貴花狸」は長年見たかった絵。細く柔らかい線で描かれた、ゆったりした美しい姿の白い牡丹と、その下にうずくまる猫。花の形は、今まで見た牡丹の絵で一番きれいだ。花にわずかに入った臙脂や、葉に残る緑青がとても美しい。かなり痛んでいるが、元はどんなに美しかったかと思う。何枚か簡単な模写を描いた。


 文同「墨竹図」は、反り返る枝が上から大きく入って下を空けた構図、勢いのある強い筆さばきで、竹の手を切りそうな葉の感触や、ちくちく刺さりそうな枝の感触。これ以上の竹の絵はないのでは、と思わせる迫力がある。


 五代人「秋林群鹿」「丹楓?鹿図」も実物を見てみたかった絵。紅葉の山の中で、物音に一斉に振り向く野生の鹿の群れの緊張感。藍、朱、緑青、胡粉など、豊富な色彩が日本画のようだが、墨をベースにした色彩の扱いは、やはり日本画の印象とどこか違う。


 無款「梅竹聚禽図」は、大きくうねる木に鳥がたくさんとまっている絵で、崔白と並ぶと型にはまって見えて分が悪かったが、ダイナミックな構成と緊張感のある絵で見ごたえがあった。


 ほかに、細密な猫のかわいい易元吉「猴猫図」、山水画では、巨然の洗練された奥深さのある「層巌叢樹図」、小さく緻密な宋人「江帆山市図」の、山麓で生活する人々の実感ある描写が良かった。許道寧「漁父図」も、前期に見たときにはあまりピンとこなかったが、後期に改めて見ると、鋭い山並みを取り巻く広い空間が素晴らしかった。また、北方遊牧民の狩の様子を描いた小品二点が、珍しいものでとてもよかった。


 蘇軾、米元章、黄庭堅らの個性溢れる書、汝窯の青磁の、泉の水のように澄んだ色、力強い宋版図書など、絵以外の展示も充実したものだった。         20072


作品の精密な画像はこちらから。