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トップ・鳥獣戯画の模写を終えて4
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トップ・鳥獣戯画の模写を終えて4
Ⅳ画材を選ぶ

 筆と紙は、組合せによってさまざまに違った表情を見せます。そこで、ある程度原画の感じに近い画材を選ぶことにしました。
 ちょうど模写を始める時期に東京国立博物館で鳥獣戯画の甲巻が展示されたため、数種類の紙にカエルを模写したサンプルを作って持って行き、実物と比べて近いものを特定しました。
 また、角川書店の「日本絵巻全集第3巻 鳥獣戯画」の中で、山口蓬春が自身の模写体験から書いている指摘がとても的確で、参考になりました。

 
 山口蓬春は「比較的筆の穂の短い、そして水含みの良い先鋭な筆端を持つ筆」、すなわち現代の削用のような筆、として次のように書いています。
 「この筆の特性は、筆の先端のきくことは勿論、筆の側面(即ち筆の腹の部分)が特に太く力強く、いわゆる筆の腹のコスリと引カケが、特に生紙の上に躍動する事である。」「とにかく全巻を通じて長い線と云わる可きものも、墨つぎによってその目的と性格とを表現している点は、画巻全体に渡ってよく観照されたい。短い穂の筆によって総てが描かれている。」
 私も今回、日本製、中国製さまざまな筆を試してみた中では、削用筆が最もピタッと来ました。
 メーカーによっていろいろな削用筆が作られていますが、しっかり先が効き、柔らかめの含みの良い削用筆で、穂の長さ2.5㎝ほどのものを選びました。
 部分的に面相を使ったのではないか、という意見もあるようですが、個人的には削用一本で全ての部分に対応できると思いました。あるいは、秋草の部分だけは、少し細めの筆を使ったかもしれませんが、現在市販されている面相の描き味とは違うように思います。面相より全体に含みがよく、先だけしっかり細かく効く筆ではないでしょうか。

 
 山口芳春は、「礬水(どうさ)をほどこさない生紙が用いられている」として、鳥獣戯画と信貴山縁起絵巻との紙の違いを「今日の土佐系の紙質と越前産の紙を用いた場合との相違の如きものを画面の上に表している。」
 「この鳥獣戯画巻の持つ墨付きの具合に、先ず第一に野趣を感ずる。この紙質を選び、かかる表現法を用いた事は、題材に対する並々ならぬ筆者の心くばりと周到な用意とが感ぜられるのである。即ち描く可き主題と材質とが、渾然一体化した調和の美が、この絵巻物に優れた結果を示したのであると信ずる。」と書いています。
 つまり、あまり表面がなめらかではない、おそらく打ち紙やどうさ引きといった加工の施されていない生の紙です。また、この絵巻に使われた紙は、楮を原料とした紙であることがわかっています。
 実際に見た鳥獣戯画の紙は、土佐で漉かれたかどうかはともかく、土佐の楮紙の感じに確かに近い、と感じました。サンプルで持って行って見比べたいくつかの紙の中でも、土佐の薄手の手漉き楮紙が、筆の線の走り具合、墨の微妙なにじみ加減など、一番ピタッと来たのです。
 ここで問題になるのは、現在の紙漉きは、平安時代と大きく異なっている、ということです。特に、紙を乾燥させる段階で金属板に張り付けて加熱して乾燥させている現代の大半の和紙は表面がパリッと硬く、木の板に張り付けて天日で乾燥させた昔ながらの柔らか味のある和紙とは墨の含みも筆の感触も大きく違う、ということです。
 どこまで材料にこだわる必然性があるのかというのは、描かれた当時そっくりの材料がそのまま手に入るわけでもなく、難しいところです。
 今回の模写は、あくまでも自分の絵の勉強の一部であって学術調査ではないので、こだわりすぎても仕方ないと思いましたが、一方で鳥獣戯画は、蓬春も書いている通り、紙の質をうまく生かして動物の質感を描き出しているため、あまりに感じの違う紙、特につるっとした紙は困ります。
 また絵巻に使える紙は、二、三回裏打ちしたうえでも巻きやすさが失われてはならないため、柔軟性のある薄手の紙に限定されます。
 今回は、昔ながらの方法で漉いた、質の良い土佐の薄手の手漉き楮紙が手近で手に入り、使いました。温かみのある紙で、柔らかく、とても描きやすい紙でした。


 墨についても、山口蓬春は次のように書いています。
 「その用墨の色階について感ぜられる事は、最高度の墨色、即ち最濃度の黒の色が全巻に渡って使用されていないと云うことである。」
 「どぎつく低俗に流れる単調な卑俗さをきらって、墨色のそれも中墨(ちゅうずみ)といわれる温かく調和感のある墨色によって全巻を構成し、かつ美しい結果を生ぜしめようとした意図も感ぜられるのである。」
 また墨運堂の資料によれば、油煙墨の生産は、中国では南宋、日本では鎌倉時代あたりから、ということで、平安時代には油煙墨はなかったということになります。
 手元にあった中国と日本、いくつかの松煙墨を試してみた結果、日本の松煙墨で選んだ紙にうまくなじむものがあったので、これを使いました。
 偶然かもしれませんが、今回試した中国の松煙墨はどれも、選んだ和紙にしっくりとなじむものがありませんでした。


 
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