トップ◆ポルトガル紀行 7月23日
7月23日(木)  ポルト-コインブラ

 今日は、コインブラへ行く日。朝、荷物をまとめて宿のカウンターに預けてから、ポルトを発つ前に街並みをスケッチしに行く。
 家並みを描くか、鉄の飾り窓のある壁を描くか迷って、壁の方を描く。どの壁にも味があり、歴史と人の生活、時の流れが染み込んだどっしりとした力があり、それぞれの壁が絵に描きたくなるような表情を見せている。壁だけスケッチして回っても飽きないだろう。
ポルトガル7.23ポルトの壁 ポルトの壁
 
 スケッチのあと、昨日見た布地屋で妻が濃い青の布を一枚購入。
 昼食に入った店は、自分で好きなものを取る形式で、タコ雑炊とラザーニャ、サラダ。ようやくおいしく、適量が食べられる店で、嬉しくなって思わずのんびり食事してしまい、出発が遅くなる。
 もともと何冊か持ってきたスケッチブックが重かった上に、ここポルトで大型本と布地まで増え、相当重い荷物になってしまったため、タクシーに乗ってサン・ベント駅まで行く。それでも駅で妻が、子供向けの楽しい挿絵の入ったポルトガル語の初歩の教科書(?)を二冊買おうとするが、思いとどまる(結局、リスボンの駅と空港で四冊買った)。
ポルトガル7.23タコ雑炊 タコ雑炊 ポルトガル7.23カンパニャン駅 ポルト・カンパニャン駅

 アズレージョの美しいサン・ベント駅から電車に乗り、カンパニャン駅で乗り換えてコインブラへ。車窓から見送るポルトの街は、やはり美しかった。
 やがて右手に鮮やかな青い海と、何もない真っ白の浜が広がってきた。バカンスの観光客が遊びに来ている。妻はこの車窓から見た海が気に入ったようで、しきりとこの海に遊びに来たい、と繰り返している。
 コインブラB駅で乗り換えて、コインブラの街へ到着。車窓からチラッと見えたコインブラも、ポルトのように、丘の街だ。
 駅を出ると強い日差しで、ポルトよりも騒々しい印象。駅からすぐの宿、ルーザ・アテナスの狭い階段を二階へ上ってチェックインする。カウンターのおじさんも、ポルトの宿よりも固く、几帳面な印象だ。最初に通された部屋は駅前の表通りに面してうるさそうだったので、裏の静かな部屋に替えてもらう。ベッドの四つある、広くて薄暗い部屋。
ポルトガル7.23コインブラ遠景 コインブラ遠景

 重い荷物をおろし、少し倒れた後、この街の主役であるコインブラ大学を見に行く。
コインブラ大学は、400年以上の歴史を持つヨーロッパ有数の古い大学であり、当時はヨーロッパでも重要な人文学研究の中心地だったと言う。数百年前の校舎が並ぶ旧大学と、現在大学キャンパスとして使われている新大学とに分かれている。大学は、この丘の街の頂上にあり、大学を取り巻くようにしてコインブラの街があるともいえる。
 地図を見ても、道がやたらと入り組んでいてよく分からない。妻の方向感覚を頼りに石の狭い階段をたくさん上り、狭い路地を抜け、曲がりくねってようやく丘の上の旧大学の裏に着いた。裏から見る旧大学は、まるで要塞のように立派に聳えている。丘の上から街を見渡すと、明るく澄んだ空を背景にして、遠くの屋根の上に、小さく軽やかな天使の飾りが見えた。

 立派な彫刻の施された旧大学の大きな石の門を入ると、いい形にねじれた木の生える中庭で、大学の校舎が大きくコの字形に中庭を取り囲んでいる。重厚な彫刻と建築が一体となった宮殿のような校舎だが、赤や黄色のカラフルな屋根瓦が、かわいらしい明るさを添えていた。コの字形の校舎の開いた一方からは、モンデーゴ川と、そのむこうの青い丘、その上には広い空がさえぎるものなく広がっていて、爽快な眺めだ。
 こんなところで学問をするのはどんな気分だろう。大学は、16世紀に当時の宮殿の中に作られたということだが、大学の立地をここに定めた人の気持ちも、なにかとても大きなものだったのだろうと思われた。
 大きな鉄の取手のついた分厚い木の扉を入り、18世紀に建てられた図書館を見学する。高い天井まで、東洋とも西洋ともつかない漆絵のような絵の描かれた本棚が立ちならび、そこに12万冊ともいわれる古い本がびっしりと並んでいる。天井や壁には金の装飾がまばゆく輝き、まるで宮殿のようだ。図書館の静寂を守るためか、それとも貴重な蔵書を守るためか、石の外壁は2メートル近い厚みがある。小さく質素な読書室もあり、机の横の窓からは青い丘が見渡せた。

 校舎の角にある時計搭の鐘が鳴る。午後七時すぎ。見学の時間は終了だが、夏の空はまだ抜けるように明るい。旧大学の門を出て、新大学の新しい校舎の立ち並ぶ広い構内を歩き、丘を下る。石畳の坂の多さは、歩くのにはかなりきつい。コインブラは学生の街とは言っても古めかしく、道の両側に立ち並ぶ建物は、時の流れが刻んだ様々な表情の上に、学生の書いた看板など現代の表情が新しく付け加えられている。今は夏休みで、街には学生の姿が少ない。ここコインブラに比べると、ポルトのほうが田舎っぽい古めかしさだった。

 夕食の店は比較的いい味だったが、やはり量が多く、食べきれなかった。ここでも、ヴィーニョ・ヴェルデはとても喉に気持ちよく、おいしい。六時過ぎだったが、この国では夕食にはまだ早いらしく、僕たち以外に客のいない店内には、おばあさんが小さな孫を連れて遊びに来ている。子供の名前を聞くと、「レオノーラ」と嬉しそうにおばあさんが答えた。
ポルトガル7.23食堂の裏口 食堂の裏口 ポルトガル7.23ファドバーの客 ファド・バーの客


 食後は、夜の街をしばらく散歩する。夜の暗さは街並から現代の表情を隠し、オレンジの街灯に中世そのままのような街並みが浮かび上がってくる。この石畳の路地に鎧を着た騎士が現れてたとしても、なんの違和感もない。
 ファド・バーへ行く。ファドは、ポルトガルの伝統的な大衆歌謡だ。女性が歌うことが多いようだが、コインブラは学生の街であり、学生の歌ったという男性のファドだ。コインブラ大学の黒いマントを着て、ギターを伴奏に歌っている。客はほぼ外国人観光客だった。
 疲れと眠気に襲われ、途中で抜けて宿に戻る。灯りを消した部屋の窓からは、家並みの向こうに、丘の上に建つ大学が見えた。
 大学の街だ。
 
 -7月24日-