FC2ブログ
トップ〇鳥獣戯画がやってきた
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
トップ〇鳥獣戯画がやってきた
「鳥獣戯画がやってきた」-国宝『鳥獣人物戯画絵巻』の全貌
2007年11月3日~12月16日 サントリー美術館
(前期11月3日~26日 後期11月28日~12月16日)

 今年は鳥獣戯画(以降この略称で書きます)の模写に取り組んでいるので、このような特別展が丁度いいタイミングで見られたのは、とても幸せでした。鳥獣戯画四巻(甲乙丙丁)は高山寺の所蔵ですが、甲、丙の二巻は東京国立博物館、乙、丁の二巻は京都国立博物館に寄託されているようです。今回は、この四巻全てと、様々な画家によるその模写、そして、白描絵巻や仏画、戯画など鳥獣戯画とかかわりの深い絵が展示されています。
 まず、鳥獣戯画四巻(前期と後期で各巻半分ずつ展示)、これはやはりどれも素晴らしいものでした。
 甲巻は、擬人化された兎や蛙、猿などが遊ぶ様子を描いた有名な巻ですが、前半と後半で筆者が変わります。今回展示されていた前半部分では、水遊びの部分が、のびのびとした気持ちよさがあり、動物達も本当に屈託無く楽しそうな雰囲気で、素晴らしいものでした。全体にあまり濃くない墨で描かれている中、さっと流れるような秋草のみ濃い墨で描かれ、絵の中の空間に、美しいリズムを作り出していました。
 乙巻は、初めて見ましたが、筆者の腕は、甲巻前半部分よりも形の捉え方の的確さ、スピード感ある動きの表現のうまさといった点で、上回っているように見えました。甲巻前半部分の筆者は、やや水っぽい、寝かせ気味の筆で、線が少しぺたっとして見えるのに対し、乙巻の筆者は、しっかり筆を立て、筆先を効かせて微妙な変化をつけながら描いています。特に、馬、牛、犬、鶏が気に入りました。後期に展示される龍や獅子の部分も楽しみです。
 丙巻前半は人物戯画。こちらは痛みが激しく、後の補筆もかなりあるのが少し残念でした。大人たちが滑稽な遊びを繰り広げる様子は、大変面白いものです。今のわれわれが、パソコンやテレビに向かっている時間を、昔の人たちはこんな風に過ごしていたのでしょうか。はたしてどちらが滑稽なのか…。筆遣いは、良く言えば柔らかく、悪く言えば、前二巻より弱いということになりますが、個人的には気に入りました。
 丁巻も人物戯画。これは前三巻とは筆遣いも紙もかなり違い、元は全く別の一巻であったろうと思われます。絵は荒いですが、面白いです。
 
さて、今回印刷物を見ながら模写していて途中で行き詰まり、どうしても実物で確認したいと思ったのは、筆遣いです。貴重な実物の展示、しっかり見てきましたが、かなり入念に、じっくり描いているようです。絵自体は速度感があり、パンフレットには手速く描かれたという解説もありましたが、実際に手速く描かれたのは、おそらく丁巻のみです。甲乙丙の三巻は、手速く描いては出せない線の特徴が出ているように思えます。まず、筆の入りですが、しっかりした力がありながら、柔らかく、鋭さがありません。これはやはりゆっくりと筆を入れているからでしょう。速く描くと、もっときつい、鋭い筆の入りになるように思います。そして、細い線もかなりしっかりした持続する強さを持っています。これも速く描いては出せない線です。
以前、書家が行書や草書を書くのを見ていて、想像以上にゆっくり書きながら、最後に出来上がったものはスピード感ある書だったのが、とても印象に残りました。スピード感は、あくまで表現であり、実際の筆のスピードではなかったのです。鳥獣戯画も、おそらくはそのようにして描かれたのではないでしょうか。筆者は、動物一匹ずつの形や雰囲気を、じっくり味わうようにして描いたのではないかと思います。そこにこの絵巻の動物達の、800年後までも親しまれる実感あふれる楽しさが生まれたのではないかと思われました。 

展示されていた模写は長尾摸本、住吉摸本、探幽縮図など、今は失われたこの絵巻の姿を伝えるものであり、研究には欠かせないであろうと思われるものでした。どれも精密な模写ではなく、かなり荒いものもありましたが、元の絵の楽しく動き回る動物達の雰囲気をよく伝えていて、写す、ということが、必ずしも全てそっくりである必要もなく、それよりも絵の持っている雰囲気を掴むことの大切さを感じさせてくれました。特に探幽縮図は小さく簡略ながら、これだけ見ていても思わず笑ってしまうような楽しい雰囲気を、柔らかい線で捉えていました。ここに描かれている高飛びや腕相撲の場面が原本から失われてしまったのが、とても惜しく思われました。

 他に戯画の系列として展示されていた勝絵絵巻、放屁合戦絵巻、それから、雀の子籐太絵巻、鼠草紙絵巻など御伽草紙系の絵巻は、どれもじっくり見入って笑ってしまう面白さです。鳥獣戯画を初め、こうした絵が描き継がれ、大切にされてきているところは、日本の文化の一つの面白さだと改めて思わされました。鳥獣戯画のような絵が、いくらうまく描かれているとは言っても、国宝に指定されるほどには重視されない国や文化もたくさんあるのではないでしょうか。鳥獣戯画が、数百年ものあいだ大切にされながら多くの絵描きがその影響を受け、国宝にまで指定されている、という日本の文化の面白い一面を、今回の展示は見せてくれているように思います。まだ見ていない方は、是非!

鳥獣戯画関係の文献
・日本の美術300   絵巻鳥獣人物戯画と鳴呼絵 / 辻惟雄著(至文堂 1991年)
   この絵巻についての基本的な知識、背景、関連する作品が的確に読みやすくまとめられており、鳥獣戯画入門として最適の一冊です。
・十二世紀のアニメーション-国宝絵巻に見る映画的・アニメ的なるもの-/高畑勲著(徳間書店 1999年)
   アニメーション映画監督で、宮崎アニメにも関わってきた筆者が、アニメ映画監督の目で日本の古典絵巻を読み解き、豊富な図版と共に映画の手法にも共通する絵巻の表現上の様々な工夫を解説していくという、非常に面白い趣向の本。絵巻は、美術館の展示ケースに伸ばされた状態ではなく、手元で繰り展げながら見ることで、初めて作者の工夫が正しく理解できる、という指摘、絵巻は八百年以上前の「紙と筆による映画」であるという指摘には、
頷くばかりです。鳥獣戯画のほかに、信貴山縁起絵巻、伴大納言絵詞、彦火々出見尊絵巻が扱われています。
・日本絵巻大成6 鳥獣人物戯画(中央公論社 1977年)
   解説の中に収められている、上野憲示氏の鳥獣戯画甲巻復元案が、謎解きを読むようで、とても面白い。氏は、甲巻を、もともと二巻あった別の巻を一巻にまとめたもの、と推定されています。上記辻惟雄氏の著書では、断簡も含め、もとは三巻であった、という推定がなされています。
他に、下記の資料を参考にしました。
・日本絵巻全集第3巻 鳥獣戯画(角川書店 1959年)
・鳥獣戯画/奥平英雄解説(岩崎美術 1968年)
・日本の絵巻6 鳥獣人物戯画/小松茂美著(中央公論社 1987年)
・大絵巻展図録 (京都国立博物館 2006年)

                                             2007年11月
スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。