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屏風の制作

 六曲屏風に絵を描いた。屏風に絵を描くというのは以前から一度挑戦してみたいと思っていたので、実現したこと自体がまず嬉しい。私としては初めての経験で、面白いことも、考えさせられることもたくさんあった。

 屏風は、長岡の表具店に仕立ててもらった。
 まず、いくつか六曲屏風を見せてもらい、縦が四尺(120㎝くらい)横は全て開くと8尺4寸(252㎝)の大きさに決めた。六曲屏風は、面が六つある、六つに折れる屏風である。本式の六曲屏風は縦二間、横幅四間(八畳間の長い方の開口部と同じ大きさ)なので、かなり大きい。今回描いた屏風はそれよりもだいぶ小ぶりである。

 屏風の作りは襖などと同じく、障子の桟をもう少し丈夫にしたような木製の骨が中に入っている。

屏風骨

 その上に和紙を何層にも貼り重ねて出来上がる。今回の屏風は、裏表両面にそれぞれ十層の紙が重ねられている。合計二十層にもなるわけだ。
 まず屏風が反ったりゆがんだりしないよう骨を固定するため、骨に糊を付けて全体に和紙を貼り付ける(骨縛り)。今回の屏風はこれが二層。次に屏風の中に空気の層を作るため、軽く浮かせるようにしてあまり大きくない紙を貼り重ねていく(蓑張り)。今回はこれが三層。それから蓑張りを押さえるように全体に紙を袋張りにする(うけ張り)。これが二層。最後に本紙(表面に来る紙)を貼るのだが、本紙の裏に二回裏打ちをしてあるので、合計三層。これで片面十層になる。骨の両面にまったく同じように紙を張っていく。両面同じにすることで裏表からの紙の引く力が同じになり、屏風がゆがまない。
 これだけ紙が重なっているとけっこうな重みがある。ちょっとやそっとでは壊れたりゆがんだりしそうもない、とても丈夫な作りである。実際、今回の制作中には床の上に平らに広げた屏風の上に乗って描いたところもある。

屏風

 自分の画室に仕立てあがった白い屏風を立ててみると、かなりの存在感があった。

 描き出す前に考えたことが二つある。
 一つは、屏風というのは絵画作品である前に、部屋の間仕切りとして使う調度品だということだ。絵画作品として単独で見られる充実感もありながら、同時に室内の背景として違和感のない絵でなければならない。屏風の前に人が座っても、花を活けても、その背景となれるような絵柄がいい。
 普通の絵であれば絵の中だけを考えて描けば良い。しかし屏風の場合、絵の中だけで全てが完結しすぎてしまっては、部屋の背景として収まりの悪いものになってしまう。現代の屏風作品も含め、今まで色々な屏風を見た中で、絵としては迫力もあって素晴らしいが、これはどうしても調度品としての使い勝手が悪いだろう、と思うような絵柄もあった。何故かと考えると、絵の中が詰まりすぎ、絵の中の空気が室内の空気へとつながっていかれないような絵になっているからだと思われた。特に、全面絵具で描きつくしたり塗りつくした屏風は、どうしても風通しが悪い。屏風というのは、絵の中と外とで空気の行き来がある、ということが大切な要素なのではないか。
 私は今回の制作に当たって、ある程度余白を取った絵を描くことにした。余白が空気の行き来を可能にしてくれるように思われたのだ。

 もう一つの問題は構図だった。
 屏風は折り曲げて立てるため、凹凸ができ、平らな画面とはまるで違う。美術館などでは、屏風を平らに広げて壁に貼り付け、一枚の絵画作品として見るように展示していることもあるが、私は屏風本来の、調度品として折って立てる前提で描きたいと思った。
 屏風の折り方に決まりはなく、ジグザグに折っても、L字型に折っても、使う人の自由である。実際、古い絵巻などを見ると、様々な折り方で屏風が立てられている様子が描かれている。部屋の間仕切りなのだから当然と言えば当然なのだが、絵を描く方としては、画面の形が一定しない所へ絵を描くということになる。あまりに完結しすぎた構図は、折り方を変えると崩れてしまう。特に、写生的な要素の強い構図は折った時に崩れやすい。今まで写生的な感じを生かして描くことの多かった私としては、発想の転換が必要だった。

 室内の背景となりうる、絵の中と外で空気の行き来がある絵。
 折り方を変えても見られる構図。
 屏風が調度品である以上この二つの条件は満たしたい、と思った。そうでなければ屏風に描く意味がない。ここに何を描けばいいのか、どういう構図がいいのか、考えるだけで二か月が過ぎて行った。
 改めて画集などを見ていると、昔の傑作と言われる屏風はその辺りがやはりうまい。等伯の松林図にしても、光琳の燕子花図にしても、絵として十分な説得力と強さがありながら、同時に部屋の背景として収まってくれるような、調度品としても成り立つ絵柄になっている。絵の中だけで空間を完結させず、室内の空間と繋がっていかれるような風通しの良さがあるのだ。折り方を変えたからといって、簡単に絵が崩れてしまうような構図ではなく、逆に絵柄が変わって行く面白さもある。構図が一定しない、ということを逆手にとって楽しむような屏風さえある。

 私はいくつかの候補の中から、草が風になびいている様子を全面に描くことに決め、下図をまとめて描き出した。屏風を開いた時、室内に初夏の風が感じられるような絵にしたいと思って描いた。
 描き終わってみると、次に屏風に描いてみたい図柄が色々と浮かんでくるようになった。今度は二曲など、違った形の屏風にも描いてみたい。
 屏風の制作は、私の絵の描き方にちょっとした変化をもたらしてくれたように思う。

「六月の風」


2017年11月


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